口田の巨樹と老木
我が国では、戦後の復興と乱開発によって巨樹が次々と伐り倒され、自然が急速に失われてきました。また、近年の異常気象や病虫害などにより脈々と生き長らえてきた巨樹や老木が枯れたり倒れて失われています。
この口田においても例外ではなく、松笠山はその名のとおり松の木が大変多くあったのですが、戦後の復興期にはその松の木の大半が伐り倒されて「紙」の原料へと変わっていきました。
◇ 世界一の巨樹は?
○ ギネスブックに掲載されている巨樹
我が国にも、屋久島の「縄文杉」のように樹齢が7200年、根周り43mと
いわれている大きな木があります。
ところで世界一といわれる巨樹には、その樹高が高い場合と、幹周りが大きな
木などがあります。
ギネスブック・ジャパン(1986年)には、世界で最も巨大な樹として、米
国カリフォルニア国立公園にそびえている「ジェネラル・シャーマン」と呼ばれ
るセコイヤスギで、高さが838m、幹周りは地上15mのところで349mも
あって樹齢2500年といわれています。
最高樹齢の木では、米国ホワイト山地のカリフォルニア側の標高3050mの
地点に生育するブリスルコーンマツで、すでに4600年たっていることが確認
されております。
また、世界で最も太い木ではメキシコのオアハカ州にある「エル・アルボル・
デル・テューレ」と呼ばれる高さ41mのメキシコヌマスギといわれ、1982
年の測則では地上15mのところで周囲358mであったといわれています。
世界で最も高い木は、米国カリフォルニア州ハンボルト郡の「トーレス・ツリ
ー」と呼ばれる幹周り134mのセコイアメスギで、高さは1103mもあると
いわれております。
○ NHKのテレビで放映された巨樹
平成10年(1998年)10月11日のNHKBSUの午後7時20分から
90分番組、「地球に好奇心」(北米大陸・世界一の木を求めて)**副題とし
て「巨木をはぐくんだ森の謎を解く」**で放映された、世界一の木の高さでは
カリフォルァの森林地帯には100mを超える巨樹があるという。
この時に放映された木が、ギネスブックに掲載されているセコイアメスギかど
うかは分かりませんが、大きな川のそばにあって、毎年定期的に発生する洪水の
ため大量の栄養豊かな土の堆積が見られ、かつ霧が毎日発生するという条件があ
るという。
また、木の上層部の葉は杉の木の葉に似て細く尖った葉をして枝を囲むように
ついていて、下層部の葉はしだの葉に似て幅広い葉が幾重にもついていた。
これは、太陽を受けやすいような仕組みになっていて、一本の木で上層部と下
層部で葉の形が異なっているところも大変めずらしい木であると思った。
口田地区にも松笠山(標高374m)には、「カクレミノ」という木がありま
す、この木は庭園樹としてよく見かけられる「ヤツデ」と同じ仲間のウコギ科の
樹木で暖地の山地に生える常緑樹、幹は高さ9〜15mにもなります。
この木の特徴は、若木の葉は3つに深く裂けていますが、成木になると卵形の
葉になり丸くなって、世界一の巨樹といわれるカリフォルニァの森林地帯の木と
は、その環境の違いもありますが逆の現象を呈している珍しい木であります。
一方、幹廻りが世界一大きいという木はメキシコにある木で、木の高さは40
mとあまり高くはないが、幹の廻りは579mあるという。
この木が、ギネスブックに掲載されている木がどうかは分かりませんが、メキ
シコの小さな村ではこの木を大切にし、樹木の周囲の草刈りや肥料も与えている
ようで、毎日少年達が夜回りをしていたずらをされないように監視もしていると
いう。この村では、観光の名所として囲いもつくり、人が幹の側には入れないよ
うにしていて、小鳥達が巣もつくって木を荒らす害虫を食べている映像も写して
いたが、近年のように異常気象続きでは、人工的に木を大切にする工夫をしてや
らないと巨樹も育たないのではないかと思われます。
◇ 日本一の巨樹?、国の天然記念物に指定されている樹木は?
樹齢7200年といわれる屋久島の縄文杉といわれている木も、環境庁の科学
的な調査では2200年、幹周りも16mとなっております。
このほか、国の天然記念物に指定されている巨樹のうち、樹齢2000年以上
といわれる樹木には、静岡県の「葛見神社」のクス(樹齢2000年、幹の周り
20m)と同じく静岡県の「阿豆佐和気神社」の大クス(樹齢2000年、根周
り16m)、新潟県の松之山の大ケヤキ(樹齢2000年、幹周り15m)、長
野県の「素桜神社」の神代ザクラ(樹齢2000年、幹周り11m)などの記録
があります。
広島県には、国の天然記念物に指定されている巨樹はありませんが、近くでは
愛媛県の「大山祇神社」のクス(樹齢1000年以上、幹周り11m)が指定を
うけております。
◇ 広島県内の巨樹と口田の巨樹は?
山県郡筒賀村にあるイチョウの木は、樹高48m(H8.8調査)で県内では
一番の高い木となっており、幹周りでは根元が肥大している三原市にあるクスの
木(13m)があります、その他根元が幾本にも分かれて林立しているものでは
幹周りが10mを越えているものも若干見られます。
広島市では、白木町井原の「新宮神社」のイチョウが35mと一番高く(胸高
周囲76m)、吉和村の「おばけ杉」と呼ばれる木は胸高周囲が88mもありま
すが、口田では、平成3年(1991年)の台風により倒れた「観音大杉」が幹
周り(倒れた木の切り株の周囲)が52mでありました。
この観音大杉に関して、「慶長4年(1651年)松ノ實御蒔ニ成候、谷筋ニ
ハ御給主様御植ノ杉御座候(郡中国郡志)」との記録が残されている。
弘住神社の「八幡の大椎」と呼ばれていた「アラカシ」も、平成3年(199
1年)の台風により中途から折れて、危険防止のため根元から切り倒されました
が、その切り株の周囲は375mもありました。
この弘住神社の裏山には、弥生時代の遺跡があって、その遺跡から炭化したツ
ブライジイの果実が見つかっており、その時代にもこの周辺一帯には生育してい
たと考えられる。
現存する巨樹は、松笠観音の台風で倒れた「観音大杉」と兄弟とも見えるスギ
やアべマキ(31〜34m)があり、弘住神社には台風で倒れた「八幡の大椎」
に匹敵する2代目の「八幡の大椎」(胸高幹回り305p)もご神木として大切
に保存されているが、周辺の道路からの自動車の排気ガスの影響をうけ、上部の
一部が枯れ枝落としがされております。
また、新宮神社のご神木と呼ばれている「イチョウ」の木は、幹周りが35m
を超え、樹高27m、樹齢は200年〜210年とも見られております。
このほか、中小田公園にある平野古墳の円墳部分の上には、「鎮守の大椎」と
呼ばれる「シラカシ」があり、根元から数本の株が林立しており正確な幹の周囲
は計測しておりませんが、樹齢は200年を超えるものと考えられます。
月野瀬神社のヅブライジイ(コジイ)の巨樹が数本ありますが、平成3年(1
991年)の台風のときそのうちの1本が倒れ、現在その切り株の一部が僅かに
残り立木のあった場所をしることができますが、その切り株からこの木の中央部
分が空洞になっていたこと、根周りが4〜5mはあったものと推定されます。
現存する木では、神社の入り口の社務所横にある木は、胸高幹回りが32mも
あり口田では数少ない巨樹であります。
このほかに、境内の中央付近には幹回り22mとその木の西側に幹回り23m
の木があります、このツブライジイ(コジイ)の果実は、食用になり秋には沢山
の小さな果実が神社の境内に落ちております。
山崎薬師の境内には、昭和20年(1945年)代後半に植樹されたといわれ
ている「サクラ」(ソメイヨシノ)があり、植樹後50年を経過した現在、口田
地区では唯一の桜の名所として、毎年春の開花の時期には花見客で賑わっており
ます。
大歳神社には、すぎの大木がありましたが、落雷により焼けたとの記録も残さ
れております。
矢口の教蓮寺の前の矢口川の縁には「なつめ(棗)」の木があります。この木
は日清戦争(1894〜95年、日本と清国との間におこなわれた戦争、189
5年4月に講和条約を締結)の凱旋のとき、その苗を清国から持ち帰り植えられ
た記念樹ですが、現在の木はその二世といわれております。
環境庁が調査対象としている巨樹の基準は、胸高幹周3m以上の大木となって
おりますが、記念樹など樹種によっては1m未満でも貴重な老木も調査対象とし
た樹木もあります。
なお、胸高幹周とは通常は地上13mの位置を基準として定められているよう
です、この高さでの幹周りを測定することとなっております。
しかし、外国ではこの胸高幹周りは、15mと規定されている国もあります。
普通、成人が立って測れる位置が測定する高さになり日本では12m〜13m
が基準として測られております。
しかし、傾斜地に生えている巨樹などではその計測は難しい場合もありますの
で、この基準は一般的な基準として利用されております。
◇ 広島市の天然記念物に指定されている「松笠観音の巨樹群」
松笠観音の境内にある、スギやヒノキ、アベマキ、モッコクなどの樹齢200
年を超える巨木は、昭和59年(1984年)3月に巨木の群生地として広島市
の天然記念物に指定されました。
昔には、この地には大きな杉の木があって「観音大杉」と呼ばれていたが、そ
のうちの一番大きな杉の木(樹齢300年)は何かの理由で切り倒されて売られ
た、当時(昭和の始め頃)お金で175円45銭5厘であったと口田村史には記
されていますが、その売り払われた大杉と姉妹ともいわれていた残った杉の木も
平成3年(1991年)9月の台風により倒れてしまいました。
このときは、この杉の木のにそばにあった「いぬまき」という木も、一緒に倒
れてしまいましたが、この「いぬまき」の木も広島市ではまれに見る大木であっ
たといわれています。
この松笠山の巨樹群は、人里離れて松笠観音の聖地として巨樹が地域の皆さん
に大切に守られてきたこと、これからも末永く巨樹が大切に守られるなどが高く
評価されて、巨樹の群生地とし広島市の天然記念物に指定されたのでありますが
この松笠山の巨樹群も、広島市の天然記念物に指定されてから10数年という歳
月が経過して、そのときには天然記念物の対象となっていなかった樹木も大きく
成長して、この巨木の群生地は立派に育っています。
広島市の天然記念物の指定をうけたときに対象となった巨樹
|
樹の名前 |
根廻り周囲 |
目通り幹廻り |
推定樹高 |
備 考 |
スギ
|
ア |
590m |
485m |
約 35m |
台風で倒れた |
イ |
410m |
345m |
約 30m |
|
ウ |
385m |
290m |
約 30m |
|
エ |
270m |
215m |
約 30m |
|
ヒノキ |
340m |
265m |
約 28m |
|
アカ
マツ |
ア |
360m |
350m |
約 30m |
松食い虫で枯れた |
イ |
235m |
200m |
約 20m |
|
イヌマキ |
230m |
183m |
約 23m |
台風で倒れた |
アベマキ |
305m |
310m |
約 13m |
|
モッコク
|
200m
|
190m
|
約 18m
|
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|
|
(その他、比較的大きな木)
|
樹の名前 |
根廻り周囲 |
目通り幹廻り |
推定樹高 |
備 考 |
ヤマモモ |
− m |
197m |
約 12m |
|
アラカシ |
130m |
090m |
約 −m |
|
タブ
|
190m
|
210m
|
約 −m
|
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◇ 松笠山の「観音大杉」は、樹齢330年!
ところで、樹木の年齢を調べるためには、その樹木の年輪の数を調べています
が、松笠山にあった「観音大杉」は、平成3年(1991年)の台風で隣接して
いたいぬまきの木と共に倒れたのですが、このときに計測した幹回りが520p
ありました。
倒木などは年輪を調べていますが、実際にはなかなか困難で、写真撮影をして
顕微鏡などで拡大して数える方法がおこなわれるのです、この松笠山の杉の木で
は年輪を数えることはできませんでした、そこで杉の木の幹回りを計測して、そ
の木の直径を計算して推定することをいたしました。
実際には完全な丸い木はなく、でこぼこがありますので平均的な方法でしかわ
かりません。
この「観音大杉」は、幹周りが52mでありましたので円周率で割り算をおこ
ない直径は約165p(520÷314=165)と推定して、1年に杉が生長
するのは25mm(年輪の平均的な巾)であるといわれていますので、この「観音
大杉」の樹齢はおよそ330年であったのではないかと考えることもできます。
但し、郡中国郡志には寛文13年(1673年)に時の御給主様御植の杉とあ
りますので、このことからも樹齢は330年とも考えられます。
観音大杉の幹周り 1650p
推定の半径 825p
杉の木の年輪の巾の平均 25mm
(1年に幹が大きくなる平均的な値)
口田地区に現存する主要なる巨樹・老木一覧 (単位:m)
|
所在地 |
樹 種 |
胸高周囲 |
備 考 |
松笠観音 |
ス ギ |
352 |
広島市の天然記念物指定 |
松笠観音 |
ス ギ |
296 |
広島市の天然記念物指定 |
松笠観音 |
ス ギ |
223 |
広島市の天然記念物指定 |
弘住神社 |
ス ギ |
280 |
|
松笠観音 |
ヒノキ |
290 |
広島市の天然記念物指定 |
弘住神社 |
ヒノキ |
189 |
|
松笠観音 |
アベマキ |
321 |
広島市の天然記念物指定 |
松笠観音 |
モッコク |
203 |
広島市の天然記念物指定 |
松笠観音 |
エノキ |
280 |
|
弘住神社 |
タ ブ |
218 |
|
新宮神社 |
ク ス |
238 |
|
新宮神社 |
イチョウ |
352 |
|
松笠観音 |
イチョウ |
240 |
|
新宮神社 |
イチョウ |
215 |
|
弘住神社 |
*アラカシ |
305 |
|
弘住神社 |
*カシ |
219 |
神社裏の山の中腹にある木 |
弘住神社 |
*カシ |
220 |
神社裏の山の中腹にある木 |
弘住神社 |
イチイガシ |
211 |
|
松笠観音 |
ヤマモモ |
224 |
|
弘住神社 |
ムクロジ |
230 |
|
月野瀬神社 |
ツブライジイ |
324 |
神社の境内の入り口 |
月野瀬神社 |
ツブライジイ |
223 |
神社の境内中央付近 |
月野瀬神社
|
ツブライジイ
|
230
|
神社の境内の西側付近
|
|
|
※ 1 中小田公園の「しらかし」は、平野古墳の円墳上にあって詳細な調査が
おこなえませんが、隣接して生育している椿などとともに樹齢は200年
を超えるものと推定される。